原油価格の下落には警戒は必要ですが金融危機の再来の引き金にはならないと考えています

石油価格の下落によるインフレ率の低下
2015年12月21日に、北海ブレント先物が2004年7月以来11年ぶり安値をつけました。詳しくは、北海ブレント先物11年ぶり安値、来年も供給過剰か(ロイター)をご参照下さい。
2004年と言うと、BRICSが国際経済を牽引していた頃です。BRICSとは新興国のブラジル、ロシア、インド、中国を表す言葉で、当時驚異的な経済成長をしていました。その頃、私はオーストラリアにいましたが、資源国であるオーストラリアは、世界的な資源の需要による影響で好景気を享受していました。
その後も好景気は続き2008年のリーマン・ショックの前まで、原油や鉱石等のコモディティは上昇し続けました。
今回はその逆の状況になっています。米国景気は比較的堅調ですが、新興国、特に中国の景気の後退が石油価格の下落の影響の一因となっています。石油価格の下落はインフレ率の低下を伴い、各国の金融政策に影響していきます。
日米の金融政策の確認
現状日米の金融政策はどのようなスタンスをとっているか確認します。まず、FRBは12月16日に約10年ぶりに利上げを決定しています。詳しくは、米FOMC、10年ぶり利上げ 緩やかな引き締め強調(ロイター)をご参照下さい。議長は会見で「経済状況は良好で、今後も続くと見込まれるため、小幅な利上げが適切と判断した」と、今後もゆるやかに引き締めを継続すると説明しています。
日銀は12月18日に量的・質的金融緩和(QQE)の強化策を打ち出しました。詳しくは、「バズーカ3」は不発、追加緩和か迷い相場乱高下(ロイター)をご参照下さい。直接的な追加緩和の発表ではないですが、金融緩和を補完する措置だと思います。
原油安に伴うインフレ率の低下は、米国金融政策には引き締めのペースの減速や、日本金融政策では緩和長期化や追加緩和に影響していきます。詳しくは、コラム:騒ぐ申年、日米欧金融政策に潜むリスク=岩下真理氏(ロイター)をご参照下さい。このコラムの最後でも、原油動向は引き続き最大のリスクと警戒をしています。
原油価格の下落がハイイールド債市場の混乱の引き金
原油価格の下落により、米国シェールオイル関連のエネルギー企業は採算が取れなくなり、事業継続すら危うい状況に追い込まれています。こうした企業の多くがハイイールド債で資金調達をしていましたが、危機感からハイイールド債に投資するファンドの解約が殺到して、ハイイールド債に投資するファンドが事実上破綻しました。詳しくは、ジャンク債市場のバブル崩壊でリーマン危機再来も!?(ダイアモンドオンライン)をご参照下さい。ここでは、金融危機が再来するとの悲観論もあると紹介していますが、私はリーマン・ショックのような事が起きるとは思っていません。
金融危機の再来はない
リーマン・ショックは、サブプライムローンを抱えたリーマン・ブラザーズ証券の破綻をきっかけで起こりました。破綻によって、特に短期金融市場に影響し短期銀行間金利LIBORが急騰し、短期資金が必要な他証券会社に破綻が波及する不安から、マーケットが混乱しました。当時トレーダーだった私は資本主義が終わったと感じるくらいに驚いた記憶があります。しかし今は、その反省からバーゼルが強化されています。バーゼルとは、国際的に活動する銀行の自己資本比率や流動性比率等に関する国際統一基準のことです。詳しくは、 バーゼル合意、バーゼルI、II、IIIとは何ですか? いわゆるBIS規制とは何ですか?(日銀)をご参照下さい。バーゼルの強化により、証券会社や銀行はリスクを取りにくくなりました。つまり、ハイイールド債のようなリスク資産の保有はリーマン・ショック前よりも規制が強化されたということです。このことから、私は金融危機の再来は起こらないと考えています。